多焦点眼内レンズを用いた新しい老眼・白内障手術
(第59回京大眼科同窓会学会 2008年11月16日)
ここ数年の間に眼科医療の世界では、20年に1度ぐらいの画期的な進歩がありました。それは多焦点眼内レンズが開発されたことで、老眼と白内障の同時手術が可能になったことです。老眼を治す(老眼矯正)ということは、これまで多くの患者さんと眼科医の夢でした。
これまでも、世界でいろいろな方法が試みられていましたが、どれもこれといった決め手に欠けるため、老眼治療として幅広く定着するには至らなかったのでした。
しかし、日本でも2007年の夏、厚生労働省に認可された2つの米国製多焦点眼内レンズ「レストア(ReSTOR)」および「リズーム(ReZoom)」は、長年の私達の夢をかなえてくれるものとなったのです。
2006年に学会でこの新しい多焦点眼内レンズの話を初めて聞いたときは、正直いって私も半信半疑でした。しかし2007年の春にゴルフ界の重鎮ゲーリー・プレーヤー(72歳)が、マスターズに参加する1週間前にリズームを使った老眼・白内障手術をして、当日はスコア79という素晴らしい結果をだしたことを知り、老眼治療がかなりの確率で実現できるようになったと確信したのです。
このたび、老眼と白内障の同時治療を可能にした多焦点眼内レンズは、マルチフォーカル・レンズといわれ、簡単にいえば焦点が遠・近に合う仕組みの眼内レンズです。レストアはAlcon社、リズームはAdvanced Medical Optics社によってそれぞれ開発され、米国では日本より一足先の2005年に、FDA(米国食品医薬品局)が認可しました。以来、欧米で老眼矯正および白内障の治療に広く使われて実績と研究が重ねられてきています。
2007年には、実際に私も兵庫県では初めて、多焦点眼内レンズを使った老眼・白内障手術を60歳代の患者さんに行い、結果を自分で確かめました。手術前は0.1ぐらいだった患者さんの裸眼視力が、手術後は1.5になり、前にもましてゴルフのプレーが
楽しくなったと喜ばれましたので、本当に良かったと安心すると同時に、医療の進歩にも感謝しました。(この患者さんはゴルフを愛好するライフスタイルから、ゲーリー・プレーヤーと同じくリズームを使われています。)
眼内レンズの種類
眼内レンズにはいろいろな種類や製品があります。
簡単にいいますと、患者さんの眼の状態に応じて、球面レンズか非球面レンズか、透明なレンズか着色レンズか、また、ライフスタイルやニーズに応じて、単焦点レンズか多焦点レンズか、乱視を矯正する機能がレンズに加えられたトーリックレンズ(日本では、現在単焦点のもののみ認可)か、いろいろと選べる時代になってきました。どのレンズが絶対に優れているということはないのです。どのレンズもそれぞれの特性をもっていますので、その特性と患者さんの眼の状態を考えて、総合的に一番その患者さんに合うだろうと思えるような眼内レンズを使っていくことが大切なのです。
それぞれのレンズの説明は、詳しくするととても長くなるのでここではしませんが、患者さんが、白内障の手術後の日常生活で、遠くは眼鏡なしで近くは老眼鏡をかけて見てもよいか、それとも遠くも近くも眼鏡なしで見たいかで大きく選択が変わってくる、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズについて、選択のポイントをお話します。
単焦点眼内レンズ
これまでずっと使われてきていて、今でも世界の白内障手術の大半で使われている単焦点眼内レンズは、レンズの焦点がひとつなので、画質はとてもきれいです。
焦点がひとつである分、レンズの焦点に合わない距離にあるものを見るときには眼鏡がいりますが、「これまで老眼鏡をかけることに慣れているから、白内障手術をした後でも、近くのものを見るときには老眼鏡をかけてもいい」という人には適しているレンズです。
多焦点眼内レンズ
2004年ごろから海外で使われ始め、日本では2007年に厚生労働省の認可が下りた多焦点眼内レンズは、遠近両用なので焦点が二つあります。焦点がひとつ単焦点眼内レンズよりも多い分、単焦点レンズよりも見える範囲は広くなるのですが、レンズの構造からいって眼の中に入る光が分散されるために、画質は単焦点眼内レンズよりも少し落ちます。また、乱視が多いとレンズの機能が発揮されないので、乱視を矯正する技術をもたない施設では、「多焦点眼内レンズはあなたには向きません」といわれると思います。このような場合は、乱視を矯正すれば、多焦点眼内レンズも使うことができます。
多焦点眼内レンズの一番の欠点は、夜、街灯や車のライトがギラギラまぶしく見える、光の輪がかかって後光がさしているようにモヤモヤ見えるという現象が起こることです。ですから、画質が落ちる、光がギラギラ・モヤモヤするという点からは、精密な作業をする人や、車を運転することを職業にしているような人の場合は、慎重に考えないといけません。
多焦点眼内レンズの構造からもたらされる、光の見え方の変化は、一般的には時間がたつとともに脳が慣れて、気にならなくなるといわれています。
実際のところ、手術後の患者さんの話をきいていても、多くの患者さんは見え方の変化にスムーズに順応されていると思いますが、やはり「全く気にならない」という人もいますし、「気にはなるけど大丈夫」という人がいて、脳の順応の程度やスピードには個人差があります。瞳が大きい、小さいというその人固有の眼の大きさによっても、眼から取り入れる光の量や方向が違いますので、見え方は違ってきます。多焦点眼内レンズを選ぶときには、日常生活や職業の内容をよく考えて、多焦点眼内レンズを使っても大丈夫かどうかを手術前の検査で確認していくことが大切です。
ひとことでいえば、「画質は落ちてもいいから、白内障手術後は、とにかくできる限り眼鏡はかけたくない」と思っている人には、多焦点眼内レンズは適しているかも知れません。ただ、多焦点眼内レンズの費用には保険がききませんし、もともとレンズの価格が単焦点眼内レンズに比べてとても高いので、コストパフォーマンスも考えないといけないと思います。
日本で認可されている多焦点眼内レンズは、①屈折型のリズーム②回折型のテクニス・マルチフォーカル③アポダイズド回折型のレストアがあり、レンズの構造の違いから、それぞれが長所と短所を持っています。ですから、多焦点眼内レンズといってもいろいろあって、どのレンズを使うかによっても手術後の視力の結果が違ってきます。
遠谷眼科では、2007年から多焦点眼内レンズを使い始めていますが、他施設では「乱視が多いので、あなたには多焦点眼内レンズは無理」といわれた患者さんでも、乱視を矯正する手術を加えることで、多焦点眼内レンズを使うことができています。
海外・国内の学会報告によると、多焦点眼内レンズの手術後に、レンズによる見え方が患者さんに合わなかったために眼内レンズを取り出したという報告が数パーセントの割合であるのですが、遠谷眼科では多焦点眼内レンズを取り出して単焦点眼内レンズに入れ替えた例は今のところありません。手術の前に、患者さんの体型や生活や眼の状態と、多焦点眼内レンズの性能が合うかどうかをじっくり検討していることが、多焦点眼内レンズの取り出し例がないことに貢献しているのではないかと思っているのですが、これには患者さんからの日常生活についての詳しい情報提供が、本当に大きなカギとなっています。多焦点眼内レンズを希望される患者さんは、一度ご自分の日常生活を朝から晩まで、どのあたりの距離を
よく見ているか確認してみてください。
ゴルフ界の重鎮 ゲーリー・プレーヤーの手術感想
ゲーリー・プレーヤーは多焦点眼内レンズを使った手術の感想を、リズームのホームページ(http://www.rezoomiol.com)で次のように語っています。
「手術の前の7年間は、本当に惨めだった。ゴルフを仕事としている者にとって眼は大切なのに、フェアウェイやグリーンにのったボールが見えなかった。それが手術をして別世界のように見えるようになった。私の眼は今、シャープに見える。
20歳に再び戻ったみたいだ。ラインも見えるし、距離もわかる。ゴルフがとても楽しい。見えるということはなんて素晴らしいことだろう。この手術は私の人生に起こった最高の出来事のうちのひとつだ。パットのラインがクリアに見える、セカンドショットに使うクラブがわかる、スコアカードが読める、ゴルフ以外でも人生全体が変わった。私のキャディは、プレーの時いつでも私が「フェアウェイか、ボブ?」と尋ねたから、「フェアウェイ・ボブ」というニックネームをつけられていた。それが今では私がボブに、「ボブ、ボールはフェアウェイだ、君にはみえるか?」と言っているのだよ。
マスターズに出場したのは、左目の手術をして1週間後だったからとても不安だった。それが最初のホールでバーディーをとった2人のうちのひとりとなったのだ。
これにはとても勇気づけられたよ。マスターズのようなメジャー・トーナメントで、出場する1週間前に手術をして、戦うことなんかできるとは自分でも思ってはいなかった。それがショットは79で、70歳にしてたくさんのプレーヤーをやっつけたよ。
手術をするのはみんな怖いものだし、私も怖くて気が進まなかった。でもやって本当によかったよ。シンプルな手順で、奇蹟だよ。手術後は多くの合併症は出ていないけれど、ひとつあるのは、街灯などの光の周りにハロー(光の輪)が見えることだ。まだ左目の手術をしてから2ヶ月だからね。光の輪は日に日に少なくなり、脳が順応してくるから、毎日良く見えるようになってきている。驚いたことは、メガネやコンタクトレンズをしなくてもいいということだ。エンジョイしていることは、孫達に座ってお話しを読んできかせてやることだよ。
これは私の最高の喜びだ。(英語音声の原文より抜粋したものを和訳)」
ここで、2つのレンズの仕組みについて簡単に説明をしたいと思います。
レストアは、レンズの中央部と周辺部の構造が異なることで、遠・近の距離にある像をうまく見せるような仕組みになっており、リズームは同心円上にある5つのゾーンにより、明るさや距離の違う場所にある像をうまく見せるような仕組みになっています。
私達の目をカメラにたとえると、焦点を合わせるレンズは水晶体、画像を写すフィルムは網膜で、水晶体と網膜の共同作業でものが見えています。40歳ぐらいまでは、水晶体は伸縮して焦点をさまざまな距離に合わせる能力をもっており、これを調節機能と呼んでいます。カメラでいえばオートフォーカス機能のことです。
しかし年齢を重ねると調節機能が衰えてくるため、カメラでいうとオートフォーカスが機能しない状態の、老眼になってしまうのです。
また60歳ぐらいになると、水晶体が白く濁るためにものが曇って見える、白内障になる人が増えてきます。カメラでいうとレンズの部分が曇るのと同じです。
白内障の手術は、曇った窓ガラスを透明にして、外の風景がよく見えるようにすることと似ています。超音波を使って白く濁った水晶体の中身を砕いて吸引し、残した袋の中に透明な人工の眼内レンズをはめこむ手術を行うのです。これまでの白内障手術では、単焦点眼内レンズを挿入していたので、レンズの曇りはとれても調節機能が戻るわけではなく、手術後もレンズの焦点に合わないものを見るときには、メガネが必要でした。
それが、レストアやリズームなどの多焦点眼内レンズが開発されたことで、調節機能は戻らないけれども、レンズが複数の焦点をもつことにより、手術後のメガネに対する依存度をかなり減らすことができるようになったのです。
多焦点眼内レンズが開発された当初は、レストアあるいはリズームのどちらか1種類のレンズを両眼に入れる手術が行われていました。その結果、それぞれのレンズが得意とする見え方に特徴があることがわかりました。レストアを開発したAlcon社によれば、レストアでは80%の人が手術後は「全くメガネを使わない」と回答しています(http://www.acrysofrestor.com/freedom-from-glasses/quality-vision.asp)
一方リズームを開発したAdvanced Medical Optics社によれば、リズームでは92%の人が手術後は「全くメガネを使わないか、ほんのときどきメガネを使う」と回答しています。「近くではメガネに頼らない」と回答した人は80%を少し超える数字なので、そうでない20%近くの人は、近くを見るときにはメガネを使っているものと思われます。
ここ数年間の研究発表によると、レストアは近くと遠くが見やすく、リズームは中間(50cmの距離ぐらいから)と遠くが見やすいことがわかりました。
また多焦点眼内レンズを入れる手術をした後、全くメガネから離れられるかどうかは、脳の順応力などの問題で個人差があることもわかりました。
ところで、関西の人たちが好む食べ物に、「お好み焼き」と「焼きそば」という2つの違ったソース系の食べ物がありますが、どちらを食べたいかお店で非常に迷ったとき、それを解決する方法が1つあるのはご存知の人も多いでしょう。
それは「モダン焼き」という、「お好み焼き」と「焼きそば」が合体した食べ物を注文することです。「モダン焼き」は、ソース系の食べ物が食べたいという当初の目的が無事達成され、おまけに「お好み焼き」の味と「焼きそば」の味が同時に楽しめる、非常に合理的な選択です。
これと同じような発想で、違う種類のレンズを片目ずつ入れて、その性能を合体させる試みをした医師がいます。
2006年の米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)におけるセミナーで発表された、
レオナルド・アカイシ医師とペドロ・パウロ・ファブリ医師によるデータによれば、手術後メガネに頼らない割合が、両眼にレストアを入れた場合は100人中89%、両眼にリズームを入れた場合は100人中75%、レストアとリズームを片眼ずつ入れた場合は、88人中100%ということでした。
種類の違うレンズを片方ずつ眼内に挿入する方法は「カスタム・マッチ」あるいは「ミクシング・アンド・マッチング」などと呼ばれています。
それから2年たった今年、2008年4月に開催された米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)では、「(多焦点眼内レンズの開発で)白内障手術は新しい時代に入った」といわれていました。前述の2006年に発表されたアカイシ、ファブリ両医師の研究も、そのデータの数は3倍になり、いろいろな医師がそれぞれの過去3年間の1,000にも及ぶデータと経験に基づき、どのレンズを、どういう場合に、どのように使うとよいかということを、わかりやすく発表していました。
両眼に違う種類のレンズを入れる「カスタム・マッチ」も、臨床では実際のところかなり積極的に行われていることもわかりました。
もちろん、この報告は外国人のデータに基づくものですから、日本人でも全く同じ結果がでるかどうかはわかりません。
別々のレンズを同じ人の眼に挿入するという発想も、私のような農耕民族タイプの日本人では、およそ考えつかないような革新的で大胆なものだと思います。
しかし医学というものは、そのときの常識を超えるような試みも時には経ながら、進歩していくものかも知れません。
ここでは、2007年に厚生労働省の認可がおりた米国製のレストアとリズームのお話をしていますが、これらのレンズ以外にも欧米で開発されて、実際に臨床で使われている多焦点眼内レンズがいくつもあります。
そのようなレンズは、日本でも数年たてば認可が下りる可能性が高いとも思われますが、現在のところ日本で認可されているレンズはレストアとリズームの2種類だけです。
今年も海外の大きな学会では、さまざまな多焦点眼内レンズを用いた臨床研究の結果が、どんどん発表されてくることでしょう。ドイツでは、過去の白内障手術で単焦点眼内レンズを挿入している眼にも、新たに追加挿入することで多焦点眼内レンズと同じような機能をもたせるレンズが使われ始めたと聞いています。
※最新情報:
2008年8月に、Advanced Medical Optics社の多焦点眼内レンズ『テクニス・マルチフォーカル
(Tecnis Multifocal)』が厚生労働省の認可をうけました。
これで日本国内で認可をうけた多焦点眼内レンズは『レストア(ReSTOR)、『リズーム(ReZOOM)』、『テクニス・マルチフォーカル(Tecnis Multifocal)』の3つになりましたので、自分のライフスタイルに合わせたレンズの選択方法『カスタム・マッチ』の幅も広がりました。
手術後視力の精度を上げるタッチアップ —レーシックと白内障手術の融合—
多焦点眼内レンズを使った老眼・白内障手術の数ヶ月後、さらに視力の精度をあげるために行う「タッチアップ」についてもお話したいと思います。
タッチアップは、多焦点眼内レンズによる老眼・白内障手術を行った人のうち、乱視を矯正する必要のある人や、視力をもう少し調整する必要がある人など、1割ぐらいの人が受けている視力調整です。タッチアップは、レーシック(LASIK)という、レーザーで角膜の形を変えて近視・遠視・乱視を矯正する技術や、LRIというダイアモンドナイフを使って乱視を矯正する技術を使って行います。レーシックは、タイガー・ウッズが1999年10月に近視を治すために受けた眼の手術ということで、これまで耳にされた方も多いと思いますが、1990年に開発された手術技術で、米国では年間100万件以上行われている手術です。
日本でもここ数年間に急速に普及して、今年は年間30万件に達する見込みです。
レーシックは自由診療といって治療費には保険が適用されないため、現在白内障手術とレーシックの両方を実施できる眼科施設はまだそれほど多くはありませんが、当院は1999年に関西の眼科専門医の施設で初めてレーシックを開始して、現在に至っています。
タイガー・ウッズはレーシックを受けた後、最初に出場したディズニー・クラシックを優勝で飾り、2000年のUSオープンに始まってメジャー・トーナメントで4連勝という快挙を成し遂げましたが、もともと、メガネあるいはコンタクトレンズなしでは視覚障害者と認定されるほどの近視だったのです。
それも、近視の中でも最強の1%の中に入るほどの強度近視で、ティーの上のボールさえ見えず、風の強い日や雨の日にはコンタクトレンズが煩わしく、非常にストレスを感じていたとのことでした。タイガー・ウッズは「プロゴルファーとして私の視力をリスクにさらすわけにはいきません。
法律上私は視覚障害者といえました。競争相手の何人かはレーシックをすでに受けていて、彼らはその結果に満足していましたから、彼らが行ったクリニックに私も行きました。私にはよく見えないということがどんなことかわかっています。そして良く見えるということがどんなことかもわかっています。クリアに見えるほうが人生はもっといいに決まっています」と語っています(TLC Laser Eye Centersのホームページより、原文は英語)。
ちなみに2007年のマスターズで優勝したザック・ジョンソンも、2005年10月にレーシックの手術を受けているそうです。レーシックはこれまでも、近視・遠視・乱視を矯正することで、生活の質(QOL)を向上させる有益な手術であるといえましたが、多焦点眼内レンズの開発で、その応用範囲は大きく広がりました。レーシックと多焦点眼内レンズを挿入する白内障手術が融合することで、新しい「老眼・白内障手術」が誕生したといえるでしょう。
最後に
最後に、新しい老眼・白内障手術を考える上で大切なことをお伝えします。
多焦点眼内レンズは、これまでになかった、メガネに頼らない日常生活を、かなり高い確率で実現することができます。しかし、すべての人が、いつでもどこでもメガネなしで、何でもしっかり見えるようになる魔法のレンズではありません。
どんなに精密に設計されて開発されたものであっても、所詮は人工のレンズですから、若い頃の自分の眼による自然な見え方に100%戻れるわけではないのです。
また、それぞれのレンズの構造が異なるため、長所や短所があり、見え方の特徴も違います。そのため、手術を受ける人のライフスタイルに応じてレンズを選ぶことが、とても重要となってきます。ですから、手術を受けられるときには、ご自分のライフスタイルを医師としっかり相談された上で、ご自分に合ったレンズをお選びください。
多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズと比べて価格が非常に高く、現在のところ治療に対しては保険が適用されません。(日本では両眼で80万円から100万円程度のかなり高額な費用がかかります。)しかし、私達が日常生活の中で眼から得る情報は、加齢とともに耳が聞きとれなくなった音声を脳が推測することにも役立っています。米国では、よりよい生活の質(QOL)を追求する「プレミアム・レンズ」と呼ばれて、レンズ代にも公的補助が出ていると聞きますので、日本でも近いうちにそのような政策がとられ、ひとりでも多くの人々が医療の進歩の恩恵をうけて、毎日をさらにエンジョイできるようになってほしいと願っています。