他施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた後に 視力や見え方の不具合が生じた患者さんたちのこと-その2

—プレミアム(高級)ではなくベスト(最高・最良)の眼内レンズ選びのために—その2
(※2014年9月に作成した「その1」の報告の続きで、2016年12月に作成した文章です)


2014年9月に緊急のお知らせとして、「他施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた後に視力や見え方の不具合が生じた患者さんのこと—プレミアム(高級)ではなくベスト(最高・最良)の眼内レンズ選びのために—」をホームページに掲載しました。 そしてそのときは、角膜の乱視が大きい人は、注意していただきたいということを書きました。 白内障手術後の見え方の不具合を改善する場合には、乱視矯正手術を実施すれば、見え方がある程度改善する場合がありますが、それだけではだめで、眼内レンズを根本から替えてしまう、眼内レンズの入れ替え手術をしないとどうしてもだめなときがあるのです。 白内障手術後、どんどん時間がたってしまうと、眼内レンズが周りの水晶体の袋(水晶体嚢)にくっついてしまい、もう取り出せなくなってしまうのです。ですから、早く手術をしないといけないというわけで、とても時間を急ぐので、2014年9月には緊急のお知らせとしてホームページに掲載したというわけなのです。
 眼内レンズの入れ替え手術をするときには、手術を安全に実施するという観点からも、患者さんの体調を維持するという観点からも、最初の白内障手術をしてから1か月から2か月ぐらいの間に眼内レンズの入れ替え手術をするのが一番よいのです。 一番困ることは、手術をした医師が、患者さんの見え方の不具合をうまく理解できず、患者さんが見えにくいというのは後発白内障による後嚢の濁りのせいで見えないのであろうと判断して、後発白内障の治療ためのYAGレーザーを、白内障手術をしてまだそれほど時間がたっていないにもかかわらず実施して、後嚢に穴があけられてしまうことです。 そうなると、眼内レンズの入れ替えは大変難しくなってしまいます。こうなってしまうと、眼内レンズの構造が原因で見え方の不具合がでている場合は、もう根本的な問題解決ができなくなってしまうのです。
 2014年に掲載した「その1」のお知らせを見て、自分の症状とぴったりだといって遠谷眼科に来られた患者さんも少なからずおられました。九州や関東からわざわざ来られた患者さんもいました。 白内障手術をしてまだ1,2か月しかたっていないのに、来られたときにはもうすでにYAGレーザーが実施されていて、眼内レンズの交換という選択肢をあきらめざるを得なかった患者さんも数人おられました。 ある患者さんは、手術をした医師からは「1年たてば脳がなれて見えるようになりますといわれた言葉を信じて1年間ずっと待ったけれども、いっこうに良く見えなかった」といわれて、1年間待った後、やはりなおらないということで来院されました。 手術後1年もたってしまうと眼内レンズが眼の中にくっついてしまうので、眼内レンズの交換をするのがとても難しく、手術のリスクがぐんと上がってしまいます。
 こういう患者さんを見ますと、どうしてもっと早いうちに、手術をした医師が、何がどう見えないのか、もう少し疑って、詳しいところまできちんと検査をして、考えてあげてくれなかったのかなと思います。 来られた患者さんの大半は、角膜の形をみただけですぐに、ああこの患者さんには多焦点眼内レンズは合わない、とわかるような人もいました。 また、一見多焦点眼内レンズが合いそうな眼だけれども、よくよく検査してみると、希望された多焦点眼内レンズがもっている特性とは反比例して、ケンカしてしまうため、見え方が悪くなってしまうような眼の人もいました。 このような人の場合は、もし別の多焦点眼内レンズを選ばれたのだったら、これほどひどい見え方にはならなかったかも知れないと思われる事例でした。
 多焦点眼内レンズの中でも、特にレンティスは、レンズが大きいので、眼内から取り出すときは慎重に取り出さないといけません。 レンティスの取り出しは眼の中で6つにハサミを使って分割し、切開創を広げないように慎重にレンズの断片をひとつずつ、丁寧に眼の中から取り出しました。 手術が終わると、どっと疲れがきましたが、ある患者さんはなんと29ページにわたる、まるで会社の会議で使う企画書のような、眼内レンズの入れ替え前後の、見え方についての報告書を作ってきてくれました。 このような自分の見え方についての特別な報告書を書いてくることをしてくださる患者さんは滅多にいらっしゃらないのですが(前におひとり、眼内レンズの製造会社に感謝していることをわかってもらいたいと、日本人なのに英語で多焦点眼内レンズの見え方報告書を書いてくださった患者さんもいらっしゃいました)、よほど眼内レンズの入れ替えにより、見え方が改善したことを、うれしく思ってくださったのだろうと思います。 この人の事例については、のちほどくわしく説明したいと思います。
 2014年に多焦点眼内レンズの不具合についてホームページ上に記載することを考えたのは、少しでも、こういう、手術後の見え方の不具合をかかえる患者さんがでることを防ぎたいと考えたからでした。 最近のテレビでよくある医療バラエティ番組では、出演している医師のゲストが、手術件数の多いところを選ぶのがよい、とアドバイスされていることがよくあるらしいので、医療のことがくわしくわからない患者さんとしては、とにかく手術件数が多いところがいいのだろうと単純に考えてしまうみたいですが、このことには警鐘を鳴らしたいと思います。 眼内レンズが眼に合うかどうかを考えて、眼に合うと思う人だけに手術をするのと、患者さんが希望すれば誰でも手術をするのでは、当然手術の件数は大きく違ってきます。 それは、多焦点眼内レンズがばっちり眼に合うと思われるような理想的な眼をもっている人は、それほど多くないからです。 この部分は大丈夫だけれど、違う部分は、ちょっと注意しないといけないというような、多焦点眼内レンズが合うかどうかわからないぐらいのボーダーラインにある眼を持つ人は結構多いものなのです。 この手術がすぐ眼に合う、合わない、ということが検査をしてすぐわかるほど、医療はそんなに簡単で単純な話ではありません。
 あるとき、ある医療施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けて、手術後に見え方の不具合がでたために遠谷眼科に来られた患者さんがおられたので、どういう環境で手術をしているのかを不思議に思いホームページを見ましたら、その地域のその医療施設の規模では、いくらなんでもあり得ないだろうと思われるぐらい多くの多焦点眼内レンズの手術実績が掲載されていました。 きちんと検査をすれば、こんなに多焦点眼内レンズの手術に適した眼をもつという患者さんがでるわけはないのです。 おそらく手術適応の基準がゆるいか、希望する人に対してはほとんど多焦点眼内レンズの手術をするような状態になっているのか、あるいは何らかの理由があって、わざわざ医療施設の方から多焦点眼内レンズを使うように患者さんを誘導しているのか、あるいは白内障がほとんどないような眼にもどんどん手術を実施しているのか、などというようなことを思わざるを得ないような数字でした。
 時々、多焦点眼内レンズの実績を教えてください、と患者さんから聞かれることがあります。 そのようなときは、細かい件数については毎日覚えていないので、だいたいのところをお伝えすることにしますが、必ず、その眼内レンズが合わないと思われる眼には手術はしないことにしているので、希望されてきてもおことわりしています。 ですから、件数の多い少ないで医療レベルの判断をすると大きく間違うことがありますから、注意をしてください、65点の手術を100件やるよりも、95点の手術を丁寧に10件やる方がよっぽどいいのですよ、とお答えするようにしています。 今のように、とりあえずインターネットでまず情報収集する、という時代になると、ホームページの美しい言葉、多くの実績を語る数字、華々しくスマートなレイアウトなどのページがもつ印象の方が患者さんを圧倒してしまい、一番大事な本当の医療についての説明よりも勝ってしまうことがしばしばあるようなのです。
 以前、遠谷眼科は他の眼科と何が違うのか、と患者さんから聞かれたことがありました。 こういうことは今まで直接あまり患者さんからは聞かれたことがないので、何をどのようにお話したらわかりやすいだろうかと思いましたが、その時のお答えとしては、ひとりひとりの手術にかけている時間が違うのかもしれません、としました。 患者さんからは、待ち時間が長く、医師の診察時間は短い、何様だと思っているのかけしからん眼科だ、と思われているのかも知れないと思いますが、ひとりひとりの患者さんに、他の眼科ではしなかった検査をひとつでも多くすると、その検査データを診察の間に見て考える時間もかかっているのです。 また、かけている時間には、検査や診察のときなど、患者さんの目に見えているときだけのことではなく、診察の後に検査データを検討する時間のことも含んでいます。 たとえば、手術ができるかどうかというボーダーラインに入るような患者さんの眼の場合です。 患者さんの側では、目に見えないことなので、すごくわかりづらいことだと思うのですが、他の眼科から見え方の不具合をかかえて来られた患者さんのカルテの内容を見る限りでは、検査と手術にかけている時間と手間が明らかに違う、ということがいえると思います。 もちろん、私たちと同じぐらいの時間をかけて検査をし、丁寧な手術をされている眼科は全国にたくさんあると思います。 そのようなところでは、多焦点眼内レンズによる白内障手術のトラブルはほとんど起こっていないのだろうと思います。
 多焦点眼内レンズによる白内障手術の後に見え方の不具合を抱えて来られた患者さんの中には、この医療施設では、手掛けている手術の範囲からいって、また日本で知られている情報の内容からいって、ここまでのことは事前にはわからなかっただろうな、と思われる人も何人かはあります。 その点では、医師の側に悪意はありません。 しかし、この眼にはこの眼内レンズが合わないだろうということは、検査をもうひとつ追加していればすぐにわかったはずだ、この職業には多焦点眼内レンズは合わないかもしれないと、どうして調べなかったのだろうか(レンズの販売業者に問い合わせをすればすぐにわかることなのに)、この患者さんにこういう事例が起こってしまったということは、手術をしている医師はレンズの特徴をよく知らないで毎日手術をしているのだろうか、この施設からはもう何人も来られているけれども、こういう患者さんが手術後にでていることを、手術をした医師は果たして知っているのだろうか、もし知っていたのなら、患者さんはよく見えないとずっといわれているのに、何が問題なのだろうかと考えることはないのだろうか、などと思うことがよくあります。
 これから当院に来られた患者さんの中で、白内障手術の後、深刻な見え方の不具合を背負って来られた事例で代表的なものをいくつか紹介します。 もしこれから白内障手術を受けることになっている人は、ご自分の眼に合うベストの眼内レンズを選ぶための参考にしていただけたらと思います。 日本には、いぶし銀の輝きをもつ、ご自分からは滅多に前に出ることはなさらないけれど、いつも手術をとても上手にされている先生方が全国のあちこちに、本当にたくさんいらっしゃいます。 どうかもし、このページをご覧になって、ご自分は今まさにこういう状態にある、という方がおられましたら、できるだけ早く、ホームページの内容から、白内障手術に対する熱い情熱は誰にも負けない、ということが素朴に伝わってくるような眼科医の先生に、眼内レンズの入れ替え手術をしたいのですが診察をしてもらえますか、とお尋ねしてみてください。 必ず、新幹線や飛行機で、日帰りあるいは一泊で通える範囲のところにひとりはいらっしゃることと思います。


ケース1 近畿地方の80代の女性(レストア)

地元の病院で多焦点眼内レンズ(レストア)を両眼に入れた後、よく見えない状態が続いているということで来院されました。乱視矯正機能(トーリック)がついていない時代のレストアを両眼に挿入されてしまっていました。 遠谷眼科に来院されたときは、視力が裸眼で0.2ぐらいの視力で、メガネによる矯正視力もあまり出ないような状態でした。 白内障手術の直後はメガネによる矯正視力ももう少しでていたようでしたが、それでも一番良い視力が0.7ぐらいだったようでした。 角膜乱視が2.5Dや3Dを超えるということが検査でわかり、眼科の常識では1Dを超える乱視があると(手術後に残っていると)、多焦点眼内レンズを眼の中にいれてもよく見えないということになっているのに、こんなに乱視が大きくある眼に、しかも乱視矯正機能がついていない多焦点眼内レンズが挿入されてしまっているとわかり、本当に天地がひっくりかえるぐらい驚きました。 患者さんが来られたときには、既に患者さんの眼にはYAGレーザーが施行されていたので、眼内レンズの入れ替え手術は困難と判断し、高齢のため大がかりな手術は避けたいとのことで、LRIによる乱視矯正手術で乱視を軽減し、見え方を改善していく方向で考えました。しかし、患者さんがほどなく、合わない多焦点眼内レンズが眼の中に入ったためのひどい見え方も手伝ってのことと思われますが、転倒による骨折で入院されたため、乱視矯正手術の予定まで決めていたのですが、できていません。
 このケースでは、本来ならば、最初の白内障手術をするときに、保険がきく単焦点トーリック眼内レンズを挿入して眼内レンズにより乱視を軽減すれば、見え方は断然よくなったはずでした。 そ患者さんは、手術を受ける前には、多焦点眼内レンズのよいところばかりが説明され、欠点についてはほとんど説明されず、ましてや自分の眼が多焦点眼内レンズには合わないような眼であるということは、全く説明がなかったといっておられました。 眼科の常識として、あなたの眼の乱視のレベルはとても大きく、こういう眼では乱視を矯正することなしに、多焦点眼内レンズを入れても、どこも良く見えない、単焦点トーリック眼内レンズで乱視を矯正した方が、きれいに見えます、と医師が言ってあげていれば、この患者さんは高額の費用を支払って多焦点眼内レンズによる白内障手術は絶対に受けなかっただろうと思われました。現在この患者さんは、手術を受けた病院の眼科と裁判中です。


ケース2 近畿地方の60代の女性(テクニスマルチフォーカル)

地元の病院で多焦点眼内レンズ(テクニスマルチフォーカル)を両眼に入れた後、像が複数に見えるようになったけれども、手術をした医師からは、裸眼視力は1.0以上でているのでまったく問題がない、といわれて取り合ってもらえないといって、最初の手術から3か月たったころ、遠谷眼科に来院されました。
 長年真珠をあつかうお仕事をされていましたが、光の点が大きな丸に見える、真珠の珠が何重にも重なって見える、夜のライトは二重でギラギラの光の輪が見える、こんな見え方では、長年好きでやってきた仕事ももうできない、毎日死にたいと思っている、といわれました。 遠谷眼科に来られたときの裸眼視力は遠方では右眼1.2、左眼1.2、近方では右眼0.5、左眼0.5でしたので、なるほど視力検査の数字からは、何の問題もないといわれてしまうような眼でした。
 しかし眼の表面の角膜というところの形を3台の異なる検査器械で画像診断すると、2台で円錐角膜疑いあるいは円錐角膜という判定結果がでてくる眼でした。 円錐角膜という眼の病気は、角膜の表面のある部分が突出してくる病気なのですが、このことは、この患者さんの眼の表面の角膜の形がいびつであることをあらわしています。 いびつな角膜では、眼の中に入る光が均一にならず、多焦点眼内レンズが複雑な構造により本来想定している光の屈折がうまく眼の中で起こらないために、眼鏡では矯正できない乱視がでやすいです。 正常か、そうでないかのボーダーラインにあるような角膜の形では、ある検査器械では正常と出るけれども、別の器械では正常とでないことがあるのです。たとえば3台の器械ですべて正常と出れば、限りなく正常に近い角膜の形だと思いますが、器械の正常判定の結果が分かれるような時は、注意しないといけないのです。 正常か正常でないかがわからないようなボーダーラインにある角膜の形をもつ眼では、多焦点眼内レンズを眼の中に入れてうまくものが見えるようになるかは、やってみないとわからないというところがあります。 もちろん、ちょっと気になるな、という角膜の形をしている眼でも、うまく多焦点眼内レンズが機能して、ものがよく見えて満足している患者さんの例はたくさんあります。
 この患者さんは、多焦点眼内レンズを取り出して、単焦点眼内レンズに入替をしました。そうすると、夜のライトも2重に見えていたギラギラの光の輪もなくなり、何重にも見えていた真珠の珠もすっきり見えるようになったとのことでした。


ケース3 近畿地方の40代男性(レンティス・トーリック)

※29ページにわたる詳しい報告書を書いてきてくださった患者さん
 地元の眼科でレンティスを右眼に挿入したら、日中の屋外以外のところでは、ものがよく見えない、手術の前より眼鏡を使わなければならなくなったので、不安になり、反対の眼の手術はキャンセルしたといって、遠谷眼科に来院されました。 裸眼視力をはかると、眼内レンズを入れた右眼の遠方視力は1.5で、近方も1.0でしたので、なるほどこの人も、視力検査の結果からは何の問題もないといわれてしまいそうな眼でした。 いったいどのような見え方をするのか、詳しくお尋ねしてみると、夕方になると見え方が悪化する、光の輪やゴースト像が出る、半月状の形が青信号の下に見えるなどといわれました。
 この患者さんの眼の表面の角膜の形は、前のケースで紹介した患者さんとは異なり、検査器械では明らかに円錐角膜の疑いがあると判定がでるような眼ではありませんでしたが、それでも角膜の形を見ると、なんとなくいびつな形をしていました。 検査器械の自動判定は、時々この人の眼はちょっと気になる形だな、と直感的に思うような場合でも、判定方法によっては正常であるとされることがあります。
 この患者さんは、レンティスから単焦点眼内レンズに入れ替える手術をしました。以下の図は、患者さんが作成してくださった、眼内レンズ入れ替え手術前と手術後での青信号の見え方の変化です。

手術前

信号機の見え方 手術前

手術後

信号機の見え方 手術後

眼内レンズ入替手術の前は、ものが夕方や薄暗いところで二重にみえ、日中に屋外以外はまともに見えませんでしたが、交換手術の後は、くっきりと見えるようになり、心のストレスがなくなりました、というご報告をもらいました。多焦点眼内レンズには合う眼の人と合わない眼の人がいます、ともおっしゃっていました。


ケース4 中国地方の50代男性(テクニスマルチフォーカルとレンティス)

 右眼に多焦点眼内レンズを入れたが、手術後はよく見えなくなり、仕事ができなくなってしまった、手術をした眼科では、最初にテクニスマルチフォーカルを入れたけれども、よく見えないということで、次にレンティスに入れ替えをしたけれども、それでも見え方がよくならなかった。 それで知り合いの紹介で遠谷眼科に来院した、とのことでした。この人のご職業は、手元よりは少し遠くにあるモニターを見ながら、非常に細かい特殊な作業をすることでした。 手術後は、ストレスのため、食事がのどを通らず、体重が1か月で数キロ減ったとのことでした。来院されたときの遠方を見る視力は、裸眼は0.6、矯正視力は1.2でした。 とても精度の高いパフォーマンスが要求されるお仕事をお持ちでしたから、すぐに単焦点眼内レンズへの入れ替えを実施しました。
 患者さんの眼の中に入っていたレンティスは大きなレンズなので、眼の中で6つに分割して取り出した後、単焦点眼内レンズを入れましたが、3ミリぐらいの創口から手術器具を眼の中に入れて手術をしますから、手術には1時間ほどかかりました。 この患者さんは、手術が3回目という事もあり、かなり不安をもたれていたようでしたが、手術後は、ようやく数か月ぶりに正常な日常生活が過ごせるに至り、心より大変感謝しております、といってくださいましたので、私たちもほっとしました。
 細かいものをいつも見るような特殊な職業の人は、多焦点眼内レンズが合わないことが多いと思います。 何種類もの同系色を見分けるような仕事をしている人、これまでメガネをいつもかけて生活してきて、裸眼でものを見たことがないような人などについても、ご本人がよほど強く希望されない限りは、単焦点眼内レンズを第一選択にするのがよいと思います。


ケース5 中部地方の50代の女性(テクニスマルチフォーカル)

 この患者さんは、地元からは少し離れたところにある眼科で、多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けられました。 眼内レンズはテクニスマルチフォーカルが入っていました。手術後1か月ぐらいの時点で、視力は自分の指にも影が見えて一本一本に見えない、高速道路の標識も二重に見える、眼鏡をかけてもなおらない、とても不安だということで遠谷眼科に来院されました。 視力検査をしますと、右眼は裸眼視力が0.6、矯正視力が0.6、左眼は裸眼視力が0.8、矯正視力が0.9という状態でした。 ご本人は自分が見え方を気にしすぎるせいかとも悩んでおられたようですが、単焦点眼内レンズに入れ替えた後は、電気製品の表示も、自分の足の爪も、みんな見えるようになった、おかげさまでとても楽になりました、といっておられますので、患者さんの眼と多焦点眼内レンズの相性が悪かったという点も、確実にあったのだろうと思います。 この患者さんの単焦点眼内レンズに入れ替えた後の視力は、裸眼視力、矯正視力ともに両眼1.2(手術後1か月時点)になりました。 ご本人は、調子がよいとのことで、パソコン用と読書用の眼鏡をつくるといわれていました。 今はものの輪郭に沿って見えた影もすっかり消え、はっきり2つに分かれて見えた文字もひとつに見えるようになりました、と知らせてくださいましたので、本当によかったと思います。


5.終わりに

 今回は、5つのケース事例を簡単にご紹介しました。このようなことをする目的は、多焦点眼内レンズが良くないということをお伝えしたいのではなくて、多焦点眼内レンズは患者さんの眼や、ご職業や、ライフスタイルを選ぶ、ということをお伝えしたいからなのです。 日本には、多焦点眼内レンズには消極的な眼科医師の先生方もたくさんいらっしゃいます。 それは、ここに紹介した事例のようなことが患者さんに起こってしまうといけないと、患者さんの眼のことを大切に思っておられるからだと思います。 これからまた何かお伝えしたいようなことができましたら、そのつど追加していくことにしたいと思います。
 多焦点眼内レンズも、単焦点眼内レンズも、適切な患者さんの適切な眼に使われたならば、どちらも非常に満足度の高い眼内レンズだと思います。 白内障手術をこれから受ける患者さんは、どうか多焦点眼内レンズの「プレミアムレンズ」という言葉の華々しい宣伝文句に惑わされることなく、単焦点でも多焦点でも、ご自分の眼やライフスタイルに合った「ベスト」の眼内レンズを選んでいただきたいと思っています。

2016年12月4日 遠谷眼科 遠谷 茂